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名古屋高等裁判所 昭和26年(ネ)148号 判決

控訴人 原告 浅井美雄 外六名

訴訟代理人 西村美樹 外四名

被控訴人 被告 名古屋郵政局長 外二名

訴訟代理人 永津勝蔵 外一名

主文

本件控訴はこれを棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等代理人は「原判決を取消す。昭和二十四年八月十二日被控訴人名古屋郵政局長小畠富穂が控訴人中島佐治郎同加納善生に対し、被控訴人日本電信電話公社総裁梶井剛の被承継人東海電気通信局長吉沢武雄が控訴人浅井美雄同赤川広治郎同井上耕平に対し、被控訴人名古屋貯金局長小川正弘が控訴人吉田雅夫に対してした各免職処分及び昭和二十四年九月二十一日右東海電気通信局長が控訴人小島泰夫に対してした免職処分はいずれもこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との旨の判決を求め、被控訴人等訴訟代理人は控訴棄却の判決を求めた。

控訴人等代理人は当審において左のとおり補い述べた。

一、被控訴人等は甲第八号証の成立を認めながらその内容たる人事院助言のあつたことを否定しているがそもそも人事院助言とは単に参考意見という程度のものではなく国家公務員法第三条により設置された人事院がその課せられた法的責務から定員法に基く大量の整理に当つて処分権の濫用を戒める見地から特に一般的に「無権利状体に在る国家公務員を保護すべき具体的かつ最低の基準」を明示したいわば人事院指令に準ずる拘束力を有するものである。被控訴人等はもしかかる助言のあつたことを認めると被控訴人等の立場を悪くするからこれを否認するに外ならない。というのは例えば控訴人浅井美雄は勤続実に二十二年その間無事故無欠勤、表彰と抜擢昇給の事実はあつても一点の瑕瑾がなく同一の職場における多年経験勤続者であつて人事院助言による「整理から除外すべき六項目の基準」にすべて該当しているし他の控訴人等も同様であるにかかわらず控訴人等を免職処分に附したことは右人事院助言を無視したこととなり違法となることが明白であるからである。

二、被控訴人等は定員法に逸脱した不当な免職処分を行つている。すなわち定員法は同法に定められた新定員まで人員を縮減するための法律である。従て同法に基く新定員を割る人員数まで免職処分に付することは当然違法であり被控訴人等にかかる権限はない。

定員法に基く新定員は郵政省二六〇、六五五人、電気通信省一四三、七三三人であり、過員は両省合して二六、五〇〇人であり、これが整理の対象となつた整理予定数である。

そして本件行政整理に際しては昭和二十四年八月十二日に第一次整理、同年九月二十日に第二次整理が行われたのであるが、夙に官においては右第一次整理の前の同年七月末ないし八月上旬には希望退職者の数が右整理予定数を超過していることを諒知していた(全国的には定員法による退職金より低額の一般退職金を支給されて退職したものさへ相当多数ある)のであるから八月十二日の第一次整理の時にはもちろんそれ以後においては本人の意に反した免職処分はこれを行う必要は全くなかつたものである。

ここにその過剰整理数(過員に超える整理数以下同じ)を示せば次のとおりである。すなわち

郵政省においてはすでに同年九月十五日の人事院調査によると二、一九七人の過剰整理があり、右第二次整理の結果実に五、八二四人の過剰整理が行われたものである。又

電気通信省(本省、電波庁、航空保安庁を含む)においてはすでに同年九月十五日の人事院調査によると一、九八〇人の過剰整理があり、右第二次整理の結果約二、三〇〇人の過剰整理が行われたものである。

之によつて極めて明なとおり控訴人等に対する馘首はいずれも過員に超える免職であるから違法であるこというまでもない。

三、控訴人小島泰夫について。

同控訴人は前述のとおりすでに過剰整理の行われた後たる第二次整理によつて免職されたものであり、明に同控訴人がその頃官の不正摘発をしたこと、積極的な組合活動をしたことに対する懲罰的報復的処分に外ならない。

そもそも同控訴人は逓信官吏練習所を卒業し有能を謳われた人材であり、これに対しては特別の考慮が払われ直属の上司たる大高権太郎から同控訴人に対して九月二十一日午前九時を期限として「共産党を脱党して組合の支部長を辞任するよう」との旨の最後的勧告がなされたのに同控訴人はこれを黙殺したためついに同日午後同控訴人に対する免職処分の発令をみたのであり、その免職が政治的意図に基くものに非ずして何ぞや。このことは定員法による免職者に対しては処分と同時に退職金の内約二ケ月分給与相当額が支払われ、その後まもなく全額が支払われたにもかかわらず同控訴人に対しては五十余日間、寸毫も支払われなかつたこと及び免職と同時に代人を臨時採用したことに鑑みると思い半ばにすぎるものがある。

四、控訴人井上耕平について。

同控訴人は当時全逓労組愛知地区本部の専従役員としての期間短く経験も浅いこと、秋田大会に参加していないこと、専ら事務方面を担当していたことにおいて同様役員たりし訴外福島秀吉と異るところがないにもかかわらず右福島は馘首を免れ同控訴人は免職された。そして同控訴人にはなんら非協力の事例がないのであるからこれは明に同控訴人が共産党員であつたとの一事によつて免職されたものというべく国家公務員法第二十七条違反といわねばならない。

五、これを要するに控訴人等に対する本件免職処分は公正を欠き専ら政治的意図に基く不当不法のものであることはこれまで縷々述べたところによつて火をみるより明であつて、国家公務員法第二十七条第九十八条第三項第七十四条等に違反し違法と確信するものである。

被控訴人等代理人は当審において次のとおり述べた。

一、控訴人等の人事院助言に関する主張について。

被控訴人等が甲第八号証の成立を認めるのは逓信労働運動史に記事の掲載のあるのを認めるにすぎないのであり、人事院からその内容のごとき助言ないし指令のあつたことは争うものである。仮りにかかる助言が存在したとしても本件免職処分になんらの影響がない。なんとなれば被控訴人等は本件行政整理の実施に当つて既述のとおり整理の内部基準を定め控訴人等がすべてこの基準に該当することを判定した上本件免職に及んだのであるがこの整理基準は控訴人等主張の人事院助言の消極的基準六項目となんら矛盾抵触するものでないからである。

二、電気通信省においては控訴人等主張のごとき過剰整理は全くない。

郵政省においては昭和二十四年十月一日現在(第二次整理の結果)新定員を一、〇七七名(これは一般退職金を支給されて退職したものの数である)下廻つたことは事実であるがいわゆる八月十二日の第一次整理に際して控訴人等のごとき非協力者又はその他の整理基準該当者を退職せしめてもなお過員は郵政省において一一、一三〇人、電気通信省において五、七八四人あつた。とすれば被控訴人等は右第一次整理後においても更に多数の職員を本人の意に反して免職しなければならなかつたわけであるがなるべく犠牲者を少なくする目的で希望退職者によつて右過剰員数をできるだけ減少させようとして希望退職者を募つたのである。しかしそれは全逓労組が行政整理に反対して希望退職者の出ることを極力阻止していた当時の情勢に照らして被控訴人等としては多くを期待することができなかつたところその後意外にも希望退職者が予期に反して多数出たため結果的に前述のとおり郵政省において定員を割るに至つたのであり真に已むを得ない次第である。

三、控訴人等(但し控訴人小島泰夫を除く)の集団的非協力事例として左記事実を附加する。すなわち

官の暗号電報を愛知地区本部が入手する方法において著しく正当性を欠くのみならずこれを地区本部において翻訳しかつこれを地区特別情報(甲第六号証)として各支部に流布せしめたことであり、右は官の機密を漏洩するものであつてとうてい正当な組合活動ということはできない。控訴人等の非協力的言動の表現として右事実は看過するを許されない。

四、次に控訴人等の個別的非協力事例について左のとおり説明を加える。

(イ)控訴人浅井について。

南電話局定時退庁独断指令の件は昭和二十二年十二月上旬より同月十四日迄の行為を指すのであり、それ以後の行為について云為しているものでない。職場復帰命令に対し遵法闘争を以て対抗する旨放言した件は昭和二十三年八月二十六日同控訴人が地区本部より電話を以て訴外斉田労務係長に対し行つたものである。

官用自動車無断使用の件は当時同控訴人は工事局支部闘争本部長の地位に在り官の承認なくして官用自動車上にアカハタを掲揚して闘争激励をして廻つた。

(ロ)控訴人赤川広治郎について。

同控訴人に対して当局は昭和二十三年十月十八日迄に職場復帰を命じていたもので同年十一月末迄組合事務専従を承認した事実は全然ない。

(ハ)控訴人小島泰夫について。

同控訴人の免職直前に仮令同控訴人主張のごとき大高権太郎の言動があつたとしてもそれは同人の単なる個人的忠告にすぎないのであり、東海電気通信局長の与り知らないところである。従て同控訴人が右大高の言動を援用するのは筋違である。

(ニ)控訴人井上耕平について。

同控訴人については個別的事例を挙げないが既述の集団的事例はすべて同控訴人の関与しているところであり、この故に非協力と判定したのである。

以上の外当事者双方の事実上の陳述は原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

証拠として控訴代理人は甲第一号乃至第八号証同第九号乃至第十三号証の各一乃至四同第十四号証の一乃至二十一同第十五号証の一、二同第十六号証の一乃至五同第十七号乃至第二十号証の各一乃至三、同第二十一号証、同第二十二号証の一乃至三同第二十三号乃至第二十七号証同第二十八号証の一乃至五を提出し原審における証人小島泰夫同神谷重武同斎田幸雄同浅井美雄同森慶勝同福島秀吉同太田要吉原告本人小島泰夫同浅井美雄当審における証人近藤輝夫同杉原晴吉同後藤正男同富田幸一同沢田正夫同大島新助同吉田信次の右訊問の結果を援用し乙第六、七号証同第十二号証は不知その余の乙号各証はいずれも成立を認めると述べ、

被控訴代理人は乙第一号証同第二号証の一同第三号乃至第八号証同第九号証の一、二同第十号乃至第十二号証を提出し原審証人太田要吉同土井梅吉同築山金尾当審証人斎田幸雄同高村豊同西田頼市同遠藤正介同長田裕二同杉原晴吉同近藤輝夫同沢田正夫大島新助の各証言を援用し甲第三号乃至第五号証同第八号証はその原本の存在並に成立を認める。同第六、七号証同第十五号証の一、二同第十六号証の五同第二十一号証同第二十二号証の一乃至三同第二十四号証同第二十六号証同第二十八号証の一乃至五はすべて成立を認める。同第二十五号証は新聞たることのみ認める。その余の甲号各証はすべて不知同第六号証同第十五号証の一はいずれも援用すると述べた。

理由

控訴人吉田雅夫の本訴請求は相手方とすべき行政庁を誤り失当であることは原判決理由に説明しているとおりであるからこれを引用する(但し乙第二号証の二を除く)。

次に被控訴人等のする「控訴人等は国を相手方として免職処分の無効確認訴訟を提起すべきで行政庁たる被控訴人等に対し取消訴訟を提起したのは失当である」との主張の理由がないことは原判決理由に説明しているとおりであるからこれを引用する。

扨て控訴人中島、加納は郵政省の職員として、又控訴人浅井、赤川、井上、小島は電気通信省の職員として勤務中同小島を除くその余の控訴人等五名は後記のとおり第一次整理の際すなわち昭和二十四年八月十二日、又控訴人小島は後記のとおり第二次整理の際すなわち同年九月二十一日行政機関職員定員法(以下単に定員法という)第二条、附則第三項、国家公務員法第七十八条第四号に準拠して控訴人中島と加納は被控訴人名古屋郵政局長から又控訴人浅井、赤川、井上、小島は被控訴人日本電信電話公社総裁の被承継人東海電気通信局長からそれぞれ定員の改廃による過員に該たるものとして免職処分に付されたことは当事者間に争がない。

そして右控訴人等はまず右免職処分の基本となつた定員法は違憲の法律であるからこれに基く本件免職処分は違法であると主張するのであるが該主張はとうてい採用することができないものであり、その理由は原判決理由にくわしく説明しているとおりであるからこれを引用する。

次に本件免職処分を以て違法となす控訴人等(但し控訴人吉田雅夫を除く、以下同じ)主張のその他の事由について逐次判断を加える。

一、過剰整理の主張について。

定員法附則第三項には「各行政機関の職員はその数が昭和二十四年十月一日において第二条に規定する定員をこえないように同年九月三十日迄の間に逐次整理されるものとし〈以下省略〉」と規定され同法第二条によると新定員は郵政省においては二六〇、六五五人であり、電気通信省(本省、電波庁、航空保安庁を含む。以下同じ)においては一四三、七三三人と定められている。そしてこれらの規定の趣旨を体して実施せられたいわゆる行政整理に際して同年八月十二日に第一次整理次いで同年九月二十日頃第二次整理が行われたことは当事者間に争のないところである。

ところで控訴人等は右第一次整理の直前に希望退職者だけですでに国家公務員法第七十八条第四号にいわゆる過員にこえる数があつたと主張するのであるがかかることを認めるに足りる証拠は少しもない。

却て電気通信省においては当審証人遠藤正介、原審証人太田要吉の各証言によると各第二次整理を終つた同年十月一日現在においてその職員の数が前記新定員(一四三、七三三人)を割るには至らなかつたことを認めることができるから、希望退職者強制退職者の数の如何にかかわりなく控訴人浅井、赤川、井上、小島に対する強制免職は過員の範囲内の免職であることが明白である。

よつて同控訴人等四名の免職が過員にこえるものとして違法であるとの主張は理由がない。

次に郵政省においては当審証人長田裕二原審証人土井梅吉の証言によれば同省関係の整理予定数(いわゆる過員の数)は同年八月上旬の同省の調査により判明したとおり自然減耗をみこんで一八、五五六人と確定したところ右第一次整理直前迄の希望退職者は約一一、四〇〇人であつたからまず第一次整理に際しては右希望退職者の内の約二、〇〇〇人と強制退職者約五、三〇〇人との合計約七、四二六人を整理したこと並に同年十月一日現在においては同省の職員は前記新定員(二六〇、六五五人)を約三、六二七人(一般退職手当を支給されて退職したもの一、〇七七人を含む)割るに至つたことが認められ右認定を左右すべき証拠はない。

ところで控訴人中島及び加納は前記第一次整理にかかるものであるから右の強制退職者五、三〇〇人の内に入ることが明であり、これとほぼ第一次整理の時までに申出のあつた前記希望退職者一一、四〇〇人を合計しても尚一六、七〇〇人であつてこれは前記過員の数の範囲内であることが明であり、かつ前記証人長田裕二、同土井梅吉、同遠藤正介、同太田要吉の証言を綜合すると、官としては当初よりできるだけ希望退職者を多く募つたのであるが、右第一次整理後はたしてどれだけの希望退職者が出るかは当時としては全逓労組の抵抗が強かつた情勢にかんがみてほとんど予測しえないことがらであつたことがうかがえるからたまたま第二次整理の際希望退職者が予期に反して多く出て第二次整理の結果前記のとおり約三、六二七人新定員を割るに至つたとしても右のとおり控訴人中島及加納に対する強制免職がその当時過員の範囲内であつた以上これを以て過員にこえる免職として違法とすることはできないと解するを相当とする。

よつて同控訴人等二名のこの点に関する主張は理由がない。

二、人事院助言に関する主張について。

成立に争のない甲第八号証と前記証人太田要吉の証言によると本件行政整理に当つて被控訴人主張のごとき六項目の整理除外基準が人事院助言として示されたことをうかがうことができる。

しかしそれは後記の整理方針ないし整理基準と対比すれば同一のことがらについて後者はこれを積極的に表現し前者はこれを消極的に表現したという差があるだけで両者は相表裏の関係にあり、その間なんら矛盾撞着するところがないことがまことに明でありかつ本件免職処分は後に説明するとおり右整理方針ないし整理基準に則つて行われたものであるから人事院助言に控訴人等主張のごとき拘束力があると否とにかかわりなく本件免職処分になんらの影響を与えるものでない。

三、控訴人等に免職処分に値する行状がないとの主張について。

(1)  被控訴人等は本件免職処分は自由裁量行為であるから違法の問題は生ずる余地がないと主張するからまずこの点を考える必要がある。

さきにみたとおり本件免職処分は国家公務員法第七十八条第四号に準拠してなされたのであるが同条に基き制定された人事院規則の規定をみるに昭和二十四年三月三十一日制定にかかる人事院規則一一-〇の第四項によると「同条(国家公務員法第七十八条)第四号の規定により職員を降任又は免職することのできる場合において当該職員のうちいずれを降任し又は免職するかは任命権者が定める。但し法第二十七条に定める平等取扱の原則及び法第九十八条第三項の規定に違反してこれを行うことはできない。」とあつて一応は本件免職処分が自由裁量行為の如くみえそうである。しかし昭和二十七年五月二十三日制定された人事院規則一一-四によるとその第七条第四項に「法(国家公務員法)第七十八条第四号の規定により職員のうちいずれを降任し又は免職するかは任命権者が勤務成績勤務年数その他の事実に基き公正に判断して定めるものとする。」と改正され、なお前者の但書に当る部分を分離独立してその第二条に「いかなる場合においても法第二十七条に定める平等取扱の原則法第七十四条に定める分限の根本基準及び法第九十八条第三項の規定に違反して職員を免職し又は降任しその他職員に対して不利益な処分をしてはならない」。と規定しているのである。

すなわち右改正規則によると任命権者は勤務成績勤務年数その他の事実に基き公正に判断して何人を免職するかを定めなければならないのであつて免職についての一定の基準を示している。このことは本件免職処分の行われた当時施行中の前記改正前の規則においても妥当するところと解するを相当とする。何となれば右の基準は国家公務員法に認められた職員の身分人権を保障する精神にかんがみて当然の事理を明文化したにすぎないと考えられるからである。

そして右改正前の規則施行当時たる本件行政整理に際しては成立に争のない乙第三、四号証及び原審証人太田要吉同土井梅吉の証言によれば官は「公務員としての資質次いで事業の再建上必要とされる職員の技能知識肉体的諸条件特に通信事業の業務に対する協力の程度というような公共事業職員としての必須条件を判定して優位の人を残し比較的下位の人を整理するという点に最大の根拠を求める。特に重要なのは事業に対する協力の程度であつてたとい能力知識の程度が高くとも通信事業の正常な運営を阻害する行為に出でたり自ら行わなくともこれを共謀したり、そそのかしたり、あおつたりして同様の結果を招くと認められるような者はこの要件を欠く」との旨の整理方針を掲げ、かつ「(1) 法令を無視しこれがために行政事務の能率に著しい低下をもたらすような行為のあつた者、(2) 他人の職務執行に害を与えるような行為に出た者、(3) 上司の職務上の命令に対し故意にかつ程度をこえて反抗した者、(4) 職場の秩序及び規律を故意に乱すような行為をした者、(5) 事業の正常な運行に協力しなかつた者、(6) 職務遂行上信頼度の低い者」を非協力者とみて整理する旨の内部基準を設定したことが明であり、右整理方針、内部基準はひつきよう前記改正後の規則第七条第四項の趣意に合致し一層これを具体的に表現したものに外ならないとみられるのである。

とすれば任命権者は右整理方針、内部基準に遵つて免職しなければならないのであつて、本件免職処分を以て自由裁量行為に属するとする被控訴人等の主張は当たらないものというべく従つてもし被控訴人等が右整理方針、内部基準を無視して本件免職処分を行つたとすればそれは違法といわなければならないのである。

(2)  そこで進んで本件免職処分が右整理方針、内部基準に遵つてなされたかどうかをしらべるに

控訴人浅井美雄については成立に争のない乙第五号証同第九号証の一、二同第十号証甲第十五号証の一、二真正に成立したと認むべき乙第七号証原審における証人太田要吉、同土井梅吉、原告本人浅井美雄(一部)、原審及び当審証人斎田幸雄の右訊問の結果を綜合すれば、被控訴人等が控訴人等における非協力の事例として掲げている原判決事実摘示中、集団的事例(一)の(1) (2) (3) 及び個別的事例(二)の(1) の(イ)(ロ)(ハ)に該当する事実(但し(イ)の中で昭和二十三年十二月上旬とあるは昭和二十二年十二月上旬の誤記と認む)を、

控訴人赤川広治郎については前記証人太田要吉、同土井梅吉、原告本人浅井美雄(一部)及び原審証人築山金尾、当審証人高村豊の各訊問の結果を綜合すれば前同様集団的事例(一)の(1) (2) 及び個別的事例(二)の(2) の(イ)(ロ)に該当する事実を、

控訴人中島佐治郎については前記証人太田要吉、同土井梅吉、同築山金尾、同高村豊、原告本人浅井美雄(一部)の各訊問の結果を綜合すれば前同様集団的事例(一)の(1) (2) 及び個別的事例(二)の(3) 並に(5) の(イ)(ロ)に該当する事実を、

控訴人加納善生については前記証人土井梅吉、同築山金尾、原告本人浅井美雄(一部)及び当審証人西田頼市の各訊問の結果を綜合すれば前同様集団的事例(一)の(1) (2) 及び個別的事例(二)の(6) の(イ)(ロ)に該当する事実を、

控訴人小島泰夫については前記証人太田要吉及び原審における原告本人小島泰夫(一部)の各訊問の結果を綜合すれば前同様個別的事例(二)の(7) の(イ)(ロ)に該当する事実を、

控訴人井上耕平については前記証人土井梅吉、同斎田幸雄、原告本人浅井美雄(一部)の各訊問の結果を綜合すれば前同様集団的事例(一)の(1) (2) に該当する事実を

それぞれ認めることができるのであり、右認定に反する原審における原告本人並に証人の浅井美雄、同小島泰夫の各訊問の結果部分は当裁判所之を信用しない。その他右認定を左右するに足る証拠はない。

そしてこれらの事実あるかぎり前記整理方針、内部基準に照らして控訴人等がその核心たる非協力の廉あるものと判定されるのは洵に已むを得ないところというべく、従つて前掲各証拠(但し前記浅井美雄、小島泰夫の各訊問の結果を除く)によつて明なように、名古屋郵政局長、東海電気通信局長において控訴人等をそれぞれこれらの事実に基き非協力者と認めて本件免職処分に付したことは正当であつて少しも違法ではない。控訴人等の立証によつては右認定を左右するに足らない。

四、控訴人等は本件免職処分は国家公務員法第二十七条第九十八条第三項第七十四条、憲法第十四条等に違反し窮極において懲罰的報復的ないし政治的意図に基く不法不当の処分であると主張するがかかることを認めるに足りる証拠は少しもないのみならず控訴人等には前記の整理方針、内部基準に該当する非協力の事実があるとして免職されたものであることはすでにみたとおりであるから、控訴人等の該主張の理由のないものであることはいうまでもないが特に組合活動について一言すれば(控訴人等がそれぞれその主張のような組合役員であり、組合活動をしたことは当事者間に争がない。)本来正当な組合活動ならば非協力と判定される筋合がなく正当な組合活動の範囲を逸脱した行為こそ非協力に該たると認められるのは昭和二十三年七月三十一日公布にかかる政令第二百一号の規定及び国家公務員法第九十八条第一乃至三項第五、六項と右整理方針内部基準を彼之対照すれば疑を挿む余地がなかろう。

以上みたところによつて本件免職処分にはなんら違法の点のないことが明白であるから、控訴人等の本訴請求は失当といわねばならない。

しからば控訴人七名の請求を棄却した原判決は洵に相当であり本件控訴は理由がない。

よつて本件控訴を棄却すべく民事訴訟法第九十五条第八十九条第九十三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長判事 中嶋奨 判事 白木伸 判事 県宏)

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